犬夜叉

 

 

 
「犬夜叉ー!!……」
「かごめー!!」
「犬夜叉、駄目です。いくらお前でも今は人間」
 弥勒に止められて犬夜叉はその場にへたり込んだ。
かごめが谷へ落ちた。下には川が流れている。
とても勢いのある強い濁流である。 
 流されて無事であれば、下流で再会出来るだろう。そう信じて、犬夜叉達は下流を目指した。

 かごめは運よく下流の小さな村のはずれに流れついていた。
まだ意識はない。
そこへ若い青年が釣りにやって来た。
背格好は犬夜叉と同じであり、かごめと同世代の男の子の様だ。
彼は気絶しているかごめを見つけて。
「巫女……様」
 一ノ介というその青年が、そう言ったのには訳があった。
少し前の戦いで、かごめは制服を血で汚してしまった。そのため巫女の服を来ていたのだ。
そこを桔梗と間違えられ、死闘の末に誤って谷へ落ちてしまったのだ。
その為ごく普通の女子中学生が、巫女に見えてしまうのである。少なくとも今は。

『見たところとても弱ってらっしゃる。ここに流れついたのも私が見つけたのもなにかの縁村に連れて帰って様子をみよう』

 かごめはその日の夜に目覚めた。
バッと起き上がると辺りを見回した。
「お目覚めになられましたか?」
 一ノ介の顔はぱっと華やいだ。
「良かった。大事なく」
「お前は?」
「一ノ介でございます。巫女」
「巫女?そうか私は巫女なのか?」
「巫女様?」
「私の名前はかごめそれ以外思い出せない」
 一ノ介がその事を村の衆に話すと村の衆は
「そんな怪しい女助けるな。すぐに追い出せ」
 そう口々に言ったが、一ノ介は村を代々納める家の若。村の衆は決定に逆らえなかった。
次の日、かごめと一ノ介はかごめが流れ着いた川へ行った。
「ここであなた様を見つけました」
「そうか……。ありがとう。私はしばらくこの村にいてもいいのか?」
「はい、私のところに」
「迷惑をかける」
 二人は見つめ合って微笑んだ。そんな二人の間に突然、血の匂いを纏った風が吹き込んだ。
村の方からだ。
「一ノ介。それを貸してくれ」
「はい」
 かごめは、一ノ介から弓と矢を受け取ると走った。
慣れているはずもない巫女の格好で走った。
村に着いた時には、辺りは血の匂いで埋め尽くされていた。
その中心に妖怪がいた。
妖怪の長い体は村人の返り血で化粧されていた。
「村の者私が仕留める。下がっていなさい」
 かごめの言葉を信じず立ち向かって行く村の衆。
妖怪の刃が小さな子供を切り裂こうとした時、かごめの放った矢が妖怪を貫き浄化して消し飛んだ。
 その光景を見て村の衆のかごめを見る目が変わった。
子供の側へ駆け寄ると突然頭上から声をかけられた。
「かごめー!無事だったか」
 格好の違うかごめに戸惑いつつも、犬夜叉はかごめのそばに降り立った。
だがかごめは落ち着いて犬夜叉に矢を引いた。
犬夜叉はかごめの行動に戦慄した。
「お前も妖怪の仲間か」そう言った。
「お待ち下さい。かごめ様。私が説明しましょう」
かごめは犬夜叉を一瞥しつつ
「分かりました。法師殿」一ノ介の小屋でみんなが集まった。
 弥勒が全てを話すとかごめはまず犬夜叉に詫びを入れた。
 そして一ノ介の恩に報いる為、今日1日この村で自分に出来ることをしたい、と申し出たのだ。
出発するのはそれからでも遅くはないだろうと、
犬夜叉は乗る気はなかったが、記憶を無くしているかごめを今連れ出した所で仕方がない。
危ない目に合わない様に、見張って置くしかなさそうだと思った。

 次の日、かごめは一ノ介の庭で薬草を摘んでいた。昨日の妖怪が暴れたせいで怪我人が数人いた。
その看病にかごめは朝まで追われたのである。かごめが薬草を摘む姿を犬夜叉は木の上から見ていた。
気がついていないそぶりを見せていたかごめは、振り向き犬夜叉に声をかけた。
「降りて来て、話をしないか? それとも私を眺めるのが好きなのか?」
「けっ」
 犬夜叉は降りて来た。彼はかごめの前に歩み出た。
「喋り方まで似てやがる」
「似てる? 誰に?」
 かごめが近寄ると、犬夜叉は突如、彼女の手首を掴んで引き寄せた。
乱暴に彼女の腰に手を回すと犬夜叉の唇はかごめのと重なった。
いつものかごめならすぐにひっぱたいただろう。
だが自分の忘れてしまった半妖が自分を欲していると思うと、拒むことは出来なかった。
『私達はこういう関係だったのか?』
「犬夜叉……」
「かごめ、思い出して!?」
「すまない……」
 犬夜叉はかごめの体を離した。犬夜叉が背を向けるとかごめは、
この背中にいつも守られていたような気がする、とそう思った。
「今日までだぞ、ここにいるのは。かけらを集める為にお前が必要だ。だから記憶がなくなっていようが協力して貰う」
「分かっている。お前について行くよ。犬夜叉」
 かごめの返答に犬夜叉は振り返った。
かごめの黒髪が靡く、犬夜叉はもう一度かごめを自分の胸に抱きたくなった。
今度はゆっくりと近付き、かごめの手首を掴んだ。
かごめは犬夜叉に導かれるままに、彼の胸に抱きしめられた。
安心感がかごめと犬夜叉の中に流れた。
「守ってやる。かごめ」


090526 090529 090613 鋼牙Xかごめ