「いっ犬夜叉!?」 「お願い、かごめ」 すっと犬夜叉の手が伸びて来て、私の髪を一筋愛おしそうに、 自分の鼻に引き寄せた。 ゆっくりと匂いを嗅いでる。 また始まった。 犬夜叉は私の匂いを嗅ぐのが好きみたい。 でもこっちはいつもたまらなくなる、何だか意識してしまって。 犬夜叉がどういうつもりでこんなことするのかは聞いたこともないけど、 お願い、と頼まれると、嫌とはいえない。 でもこっちは髪に触れられて、 犬夜叉の息がかかってると分かってるだけでドキドキしてる。 馬鹿だな私、犬夜叉は桔梗が好きなのに。 「かごめ、膝貸して」 「えっうん……」 犬夜叉は自分の頭を私の膝に預けると、私の顔を見ながら、また髪に触れて来る。 「犬夜叉はかごめ様の匂いを嗅がぬとどうにも落ち着かんようだな」 「だね」 少し離れて、休んでいる、弥勒様達の話し声が聞こえて来て、 私はますます恥ずかしくなって来た。 だってこんな真昼から、爽やかの空の下、野原でみんなと一緒なのに。 犬夜叉は何も恥ずかしくないみたい。 それから暫く、犬夜叉の好きな様にさせていた私だったけど、 少しため息を付いた。 私はどうせ一時の慰めにしかならないんだわ。 ため息付いた時、私の膝から、重みがなくなったのが分かった。 犬夜叉は起き上がって。 「何、ため息付いてるんだ」 膝を占領して少し気分が良くなったのか、私の顔色を伺い出した。 「言いたいことがあるなら、はっきり言えよ」 「じゃあ、言わせて貰うわ。もう膝枕は無しよ」 と犬夜叉の目から、顔を背けた。 「えっなんだよ。お前、嫌な顔しなかったじゃないかよ」 犬夜叉に背中を向けて、怒った素振りをして立ち上がった。 「慢してたのよ!」 私達の突然始まった喧嘩に外野が騒ぎ初めてたけど、 私はもうそんなことはお構いなしだった。 「そうかよ。だったらもう頼まねーよ!」 「そう、それなら良かった」 何やってんだろ、私。 犬夜叉に嫌われる様なこと言って、怒らせる様なこと言って。 自分の気持ちの中に後悔の念が込み上げて来たその時、 犬夜叉の手が私の肩を掴んで、私を押し倒した。 私の視界には赤い衣を着た、銀髪の青年の顔があった。 犬夜叉、怒ってるのね。 今、謝っちゃえば……。 そう考えを巡らしていたのに、犬夜叉の不意の口付けに、 私は思考を奪われた。 遠くの方で弥勒様が七宝ちゃんに、見てはいけないと言ってたり、 七宝ちゃんの抗議の声が、かすかに聞こえた様に思う。 「……犬夜叉」 「口付けならしてもいいのか?」 「もうしてるじゃないの。エッチ!」 私は少しで隙間から犬夜叉の下から脱出した。 「エッチだぁ、だったら匂いをじっくり嗅がせろ!」 と迫って来るので戸惑った。 「よさぬか、犬夜叉!かごめ様に触りたいのは分かるが、こんな昼間から」 弥勒が、かごめに迫る犬夜叉の背中に声をかけた。 「うるせえ……かごめが欲しいけど膝枕で我慢してんのに、 それまでお預けなんて、はぁ生きてる心地がしねー」 犬夜叉の本音に一同は驚いたし、 どうしたんだ犬夜叉はと、心配したりもした。 一番驚いていたのはかごめだった。 「犬夜叉……」 犬夜叉が、私を欲しい?それを我慢してた。 えっ、それって……。 私のこと嫌いじゃないってことだよね。 何か、それだけでも聞けて良かったかも。 「何、笑ってんだよ」 「別に……」 とりあえず丸く収まった様ですな、 と見届けると弥勒はまた珊瑚達の所に戻った。 横に座り、寛ぐ珊瑚の横顔を、 暫し眺めてからおもむろに、彼女の手を取った。 「法師様?」 「珊瑚、お前が欲しい」 思いっきり言ったものだが、夫婦になったらね。 とニッコリと返されては、次の言葉は見当たらない。 珊瑚は私と、夫婦になる気持ちはまだあるらしいと、安心したからだった。 「それを聞いて安心したよ。珊瑚」 昼間っからあっちらこっちらと、いちゃいちゃするカップル二組を尻目に、 七宝はかごめのリュックから出した、お菓子を食べては空を眺めた。 「平和じゃの」 トップへ戻る