091013 黒崎X吉川
『誰も信じてないの?』

……。
当たり前のこと聞いてんじゃねーよ。

窓を開けて、外を眺めると、もう暗い。
最近、暗くなるのが早くなった。
少し冷たい風が俺には心地いい。
冷えた体に、熱いコーヒーが沁みた。

カリカリと音がする。
誰なのか? 俺には分かる。
最近、浮気中のアイツ。

ドアの開けると、薄明かりの中、目だけを光らせてる。
廊下に座って、撫でてやると、媚を売る。
予想しているより、可愛い声で鳴いたりね。
「なぁ、もうアイツのとこの猫になっちゃえよ」
そう話かけると、嫌だと、俺の腹の上に丸まった。
こうなると、当分動けない。

冷えた体に温もり、耳には喉を鳴らす音だけが聞こえる。

「本当、邪魔だな。お前……っ」
それは見慣れた人影だった。
「お前、いつから……」
「いつからだっていいでしょ」
何だ、今日はやけに反抗的だと思った。
でもその日は、驚かされることばかりだった。
「何のつもりだ」
「クロちゃんの寝顔が見たくて」
真横に座り込んだと思ったらそんなことか
「だったらお前が代われ」
と抱き起こそうとすると、その手を掴まれた。
「大きい声出さないで、起きちゃうじゃない」
あっそ、勝手にしろ。
「よく寝てる」


「黒崎……」
「……何だ。用件があるなら、早く言え。家賃は待たないけどな」
にやりと嫌な笑いをしたつもりだった。
「黒崎、あんたもたまには休んでいいんだよ」
何だか、カッとなった。夕飯がまだだったせいか
俺はクロを抱えて、その場で立ち上がった。
「説教なら聞かない」
俺は部屋の中に入った。そして、クロを放した。
閉まるドアをアイツは止めた。
「説教じゃないわよ」
ヅカヅカと部屋に上がり込んで来た。
折れそうな音を立てて、閉められたドア。
まるで俺の心だ。
「出てけっ」
頭が真っ白になるってこういうことだ。

あいつをすんでの所で取り逃がした時の
あの空虚な感じ、あれとはまた別。

「誰かを慰めたいなら、他当たれ」
さっきまでくっついてた体も唇も突きはがした。
「嫌、あんたが好きなんだもん」
ドキッとした、そして驚いた。
こいつ大分前に俺とそういう関係になることは望んでないって言ってたはずだ。
「顔見せろ! 酔ってるんだな」
「酔ってないわよ。バカ!」
何故殴る! 何故攻められてるんだ。俺は……
「イテッ、バカ止めろっ」
そのまま俺達はベットに着陸した。


「……おい、重いんだけど」
顔を覗くと何だか、辛そうな顔で俺に抱きついたまま寝てた。
くそっ、俺は諦めた。こいつを突き放すのに、今日はね。
クロもベットに上がって来て、俺の顔の横で丸くなった。

「本当、お前らって勝手だな」
その夜俺は眠りにつくのに、苦労した。