091028
 
今日でこの小学校ともお別れだ。
大半の卒業生は同じ中学に進学する。
もちろん、春菜とも一緒の中学。
 
でも、ここで言っておかなきゃけじめがつかない。

 「後で中庭まできてくれないか?」
彼女はこくりとうなずいてくれた。

 式が終わって中庭に行った。
しかし、彼女はなかなか来なかった。
 卒業……。
彼女の卒業はこの学校に取ってどれだけの損失だろうとふと考えた。


 いくら待ってもこないので僕は歩き出した。
門を抜けると、走ってくる足音が近づいて来る。
ドンっと僕の背中で止まったのは彼女だった。
「遅いぞ」僕は振り返らずに言った。
「ごっごめん」彼女は僕の背中にしがみついていた。

遅れた理由なんて分かっていた。
彼女は人気者だ。
でも、待っている間に僕の決心が揺らぐことはなかった。
 中庭でも、学校の門の前でも同じことだ。
 「春菜が好きだ。俺と付き合って欲しい」
僕の精一杯の告白は彼女の涙にすいとられた。
「なっ何? 嫌?」言葉なく、ふるふると首を横に振る。
返事はOKだった訳だ。

「泣くなよ」彼女にハンカチを渡した。


 次に彼女の口から出た言葉は「卒業したんだね。私たち」だった。
「もしかして、嫌なのか?」コクリ、涙のわけはそれだった。
「別にもう来るなってことじゃないし、みんな同じ中学じゃないか?」
こういう時上手く言えない。

 彼女を家まで送った。

「じゃあな。それからあの告白なしでいいよ」
「えっ!?」

 来た道を戻ろうとする僕の袖を彼女は引っ張った。
「よろしく、おねがいします」
と改めて言われると自分がとんでもないことをしでかしたと思った。
ドキドキするし、照れる。

「よし、これからはお互いを名前で呼び合おう」
「えっ!?」
彼女が赤くなるので、こっちも恥ずかしくなる。
まるで、鏡のようだった。
「来華」
「……将一」
無理に名前まで呼ばせてどんどん、大胆なっていく自分がおかしい。
「じゃっ」キュッと彼女の手を握った。
後ろを振り返ると、野次馬の数に驚いた。
来華が恥ずかしがっている理由はみんなが見ているからだ。
多分。
僕はその野次馬を引き連れて帰ることにした。
振り返ると彼女はまだ赤い顔をして、立っている。手を振ると、手を振ってくる。 

やっぱり校門の前はまずかったかな。

花丸小の伝説になるかもな。