100807
 二人の影が道に隣同士で歩いている。 

「ねぇ 先輩。例の物用意したんで、どうですかね。週末、俺の家来ませんか?」 

 それは夕暮れの下校道だった。 
放課後の漫画をひたすら描くと言う作業を終えた二人が歩く。 

「いいけど、何その例の物って、私何も聞いてないけど?」 
 横目で彼女はその例の物が気になって彼を見た。 
「それは来てからのお楽しみってことっスよ」 
 ニッと笑った口元に他意はない、そう思った彼女は週末、彼の家に行くことに同意した。 
「まぁ、いいけど、ね」 

 でも、考えてみると最近、彼の部屋に行くことが生活の一部になっている。
 そう思って、彼女は顔を伏せた。 自分たちの行為を思い出して恥ずかしくなったのだ。 
自分の隣で顔をころころ変えている彼女を見て、からかいたくなった彼は、少し自分の方に彼女を引き寄せた。 
肩に回された手の温もりを感じて、思わず彼女はすぐそこにある彼の顔を見た。 

「何……」 
「先輩が俺といる時に、俺以外の事考えてるの嫌だから」 
「何言ってるのよ。あなたの事考えてたのよ」 
「えっ! ホントっスか。うれしいなぁ うれしいついでに」 
 近づいて来る彼の唇から逃れる様に、彼女は彼の腕からするりと抜けて小走りに先を急いだ。 

「あっいいじゃないですか、キスくらいっ」 
 その彼女の後を彼は数歩で追いついて、顔を覗き込んだ。 
「嫌よ。こんな道端じゃぁ」 
「じゃあ、どこならいいんですか?」 
「二人っきりの時だけ」 
 そうきっぱりと言われて、彼は少しガッカリだった。 

『先輩の事、可愛いって思ってもその時はキス出来ない事を方が多いよなぁ。二人っきりの時、か』 




「適当に座って待ってて下さい」 
 彼が階段を降りる音が聞こえて、彼女は部屋で一人っきりになった。
『もう、この部屋にも慣れちゃったなぁ』 


 彼女は彼がいつも寝起きしているベットの端に腰かけた。 
ふかふかの掛け布団の肌触りを確かめると、何だか寝転びたくなるのは人の習性の様なものなのだろうか? 
 バフッと音を立てて後ろに倒れた。 
彼女は足もあげてしまって、ベットの上で眠る体勢を整えた。 
ふぅとその桃色の唇から一息つくと、彼女の瞼は少し重くなった。 
彼が階段を上がって戻って来た頃、彼女の意識は少し遠のいていたのである。 


「例の物を持ってまいりましたぁ~。ってあれ? 先輩?」 

 彼は持っていた缶二つをテーブルに置くと、彼女寝ているベッドに腰をかけた。 
「先輩? まっマジで!? こういう時はやっぱり、襲うべき」 
「襲っちゃうんだ……」 
「っ……いつから、おっ起きて」 
「寝てごめん、せっかく来てるのに」 
「あっいや、そだ。これっスよ。はい、先輩の分」 
 彼はその缶を両方取って、彼女に一本を渡した。 

「あぁ新しいの出たんだ」 
「そっ二本手に入れたんで、一緒にどうかなって思いましてね」 
 カツン、カツン、乾いた音が部屋に響いた後彼女はその行為をあきらめて、彼に託した。 
「あっ開けてもらっていい?」 
 既に缶を開けていたそれを床に置いて、彼女の差し出した缶を手に取った。 
「いいっスよ」 
 難なく開けたそれを彼女に渡すと、乾杯と言って二人は缶を傾けた。 
喉を潤す音がお互いの耳に聞こえて来た。 
「結構、いけるわね」 
「そうっスね」 


 彼は缶をテーブルに置くと、据え置き型のゲームをセットし始める。 
「あっそいと、例のあの新発売のゲーム、入手しときましたよ」 

 彼はそのソフトを自分の背後にいる彼女に見える様に、空箱を示して見せる。 
「へぇ手に入れたんだ。レアだから大変だったんじゃない?」 
「先輩、プレイしたいって言ってたでしょ~。それで、ちょっとね」 

 もくもくと二人でプレイを始める為のセッティングをしていた。
その背中に彼女は缶をテーブルに置いて、声をかけた。 

「今日はしない」 
「えっ!? なんっスか―」 
「今日はそのゲームは止めましょ」 

「あぁ……他にしたいのがあるならっ」 


「ゲームはいいよ」 

 その声に彼女の声に反応したというか、彼は隣にまた座った。 

「何か、ありました」 
「……」 

 彼女は自分から少し、彼に寄った。意外な展開に彼は動揺していた。 
「珍しいですね。先輩の方から、なんて」 

「悪い?」 
「そんな、こと……ないっスよ」 


 むにゅっと触れた唇、その先端から体温を感じる。 
全部の神経がその唇に通ったみたいに、その部分だけがうずいている様だ。 
 彼女から漏れる息遣いも全部自分のものだ。彼がそう思う瞬間だった。 
 こうやって触れ合っている時、一番近くにいるのは自分なのだから。 
普段は聞かせない羞恥心に満ちた彼女の唇から漏れる声に彼の脳裏が熱くなった。 
 さっきまで静かだった部屋の中は二人の存在だけを包んでいて、その中で熱を持つのも二人の重なった二人の体だけだった。 



 
 

 すっかり、ぬるくなった限定物の缶の残りを飲み干しつつ、彼はベッドに腰掛けていた。 
 彼はまだ自分がいつもくるまっている掛け布団で、そのほそっこいからだを隠している彼女に声をかけた。 

「大丈夫ですか? 先輩」 
「うん、平気」 
 彼女がもぞっと、体を動かした時、彼はその中に興味も持った。 
「先輩の裸みたいなぁ」 
「えぇ……ダメ」 
 まぁそう言わずに、ねっそう言いつつも彼は彼女の体を隠している物をひっぺがえした。 
 部屋の明かりに照らし出された彼女の体。 
「こんなに明るいのにっ」 

 困惑した表情を見せた彼女は自分の腕でまず胸を隠す。 
 そんな事をしても、形も知っていれば、味だって分かる。 
 でも、しっかり見てみたい、暗い部屋の中というベールに包まれたその柔肌を、そう思っての行動だった。 

 彼女は巧みに三角座りになって、両の大事な部分を見えない様に、壁際に逃げた。
 しかし、そんな抵抗は空しいもので、手を伸ばせば、すぐそこにある、彼にとってのその甘い誘惑だった。 
 彼女を今一度、押し倒した彼は彼女の肌を見て驚いた。 

「あれ、これ全部」 
「あなたが付けたんでしょ……バカ」 
 まるで桜の花びらが肌にちりばめられているかの様になっていた。 
それが自分が彼女にした行為の痕だという事を目の当たりにした。 

「ねぇ もういいでしょ。そんなジロジロ見るもんでもないからさ……」 
「そんな事ない。綺麗です」 
「ちょっ そこはいやって、言ってるじゃない」 
 彼はもう彼女の嫌がる所も知っているし感じる所も知っている。 
「可愛い、先輩……あのもう1ラウンドいいっスかね」 
「なっ! むっ無理」 
「拒否っても、止まりませんよ。そんな裸でいられちゃ襲ってくれって言ってる様なもんでしょ?」 
「最初っから見なければ!」 
「はいはい、今度から気を付けますから、ね」 
 彼女にだけ見せる彼の、その柔らかい笑顔に時々勝てない時があった。彼女は彼の首に腕を回して、また覚悟を決めた。